睡眠負債と企業リスク

 / レポート
脳神経科学者 早稲田大学研究戦略センター教授 / 枝川 義邦 先生
睡眠負債と企業リスク

一人ひとりが進める働き方改革

働き方改革が声高に謳われています。社会の大きな流れとして、現在の働き方を見直し、必要に応じて改革を進めていくことが求められています。ビジネスでは多くの場面でPDCAサイクルを回すことが必要ですが、働き方自体にもその考えが及ぶことは喜ぶべき状況でしょう。

働き方改革を支える骨子のひとつには、「健康経営の推進」が挙げられます。健康の三本柱は「食事、運動、そして睡眠」であり、これらがバランス良く健常な状態にあることが望ましいのです。

食事と運動には、比較的、意識を向けやすいもの。食事中にも、運動中にも、自分がどのようなことをしているのかの実感が持てます。しかし睡眠は、眠っている最中には、その体験を実感することは、ほぼないでしょう。ただ休んでいる時間とも捉えられがちなこともあって、なかなか意識を向けにくい対象です。様々な働きやすい仕組みを作り、仕事の効率を上げたとしても、健康を害しては元も子もありません。

毎日、たとえ1時間程度の睡眠不足であっても、それが常態化すると「睡眠負債」を抱えることになります。睡眠時間は、そのひとそれぞれに最適な時間があるものですが、多くの場合、現在の睡眠時間では短いとされています。たとえば6時間眠ると、今日はよく眠った、となるでしょう。しかし米国での研究からは、6時間睡眠を続けると、脳の働きは徹夜明け同様の状態になることが知られているのです。

となると、わが国では、多くの人が睡眠負債を抱えているのが実情ではないでしょうか。その状態が慢性化すると、うつ病や認知症、高血圧症、糖尿病、がんなどへの罹患率を高めるといいます。日本人の死因の多くは、睡眠負債でリスクが高まると言われるものでもあります。

しかし、いくら重い病気になると言われたところで、日常的にはあまり意識が向かないのではないでしょうか。明らかな睡眠不足であれば、なにかうまく行かないことが生じた場合、その原因が眠っていないからだと気づきやすいものです。睡眠負債は自覚しづらいことが特徴なので、ミスをしたりしても、その原因を睡眠不足には結びつけられにくいのです。しかし、実は日常的にも睡眠負債の影響は及んでいます。例えば、もの忘れや単純ミスが続いたり、怒りっぽくなったり、風邪をひきやすくなることや肥りやすくなったりもします。仕事においては、これらの多くはヒューマンエラーにつながるものです。可視化されないものも含めて企業にとってはリスクであり、労働生産性の低下が常態化したり、ときに大きな損失を呼び込むものでもあります。

一方で前向きに捉えれば、生活習慣や睡眠中の環境を整えることで、意識を向けにくい睡眠に働きかけ、睡眠負債自体や、それによって受けるダメージをより小さくすることもできましょう。一人ひとりが自分目線の働き方改革を進めることで、企業リスクも低減できそうです。

 

スリープテクネの社会的機能

多くのサービスは、社会の良化を目指し、生まれてきました。2019年に産声を上げたスリープテクネもまた、その一つです。職場における睡眠改善の可能性をただひたすらに追及し続けることで、全産業の根幹である人の生み出す生産性向上に貢献してまいります。